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目が覚めると、隣に彼がいた。
(そういえば、彼は気を失ったんだっけ・・・)
やり過ぎたかなと私は口元に笑みを浮かべた。
飢えていた。
忙しい恋人を攫うようにして自分の屋敷へと連れ帰り、彼を抱いたのだ。
一時も、離れたくない。
彼の細い指に、自分の指を絡ませる。
気が強くて、口が悪くて、方向音痴で・・・だけどそのすべてを愛している。
こつりと彼の額に、自分の額を寄せた。
もうすぐ、彼の目が覚める。
その前に
「愛しているよ・・・君だけを」
そうつぶやくと、彼の指に口付けた。
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外に雨が降りづづく。
さすがにもう深夜だ、誰もいない。
「あんの常春!!何やってやがる!!」
夜なので、いつも結い上げている髪はおろしていた。
髪も、服も何もかも、雨で濡れてしまっている。
(泣いていた・・・馬鹿な!!)
女にだらしないけれど、普段誰にでも、笑顔で・・・誰よりも強くて、優しい男が
「絳・・・攸」
濡れるにも関わらず、俺は外に飛び出した。
「楸瑛・・・お前・・・」
言葉では伝えられない。
だからこそ。
俺は、自分から彼を抱きしめ、口付けた。
長い長い口付けを交わす。
互いの唇が離れると俺はそのまま彼を抱きしめた。
「俺は、お前を一人にさせない・・・そばにいるから・・・頼むから、もう泣くな)
黒く濡れた髪を手で梳きながら、俺は楸瑛の耳元で囁いた。 |
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藍色の瞳が獲物を狙うからのように、俺を見つめる。
ちろりと目の前の男が紅い舌で唇を舐めながら、にやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
すでに、自分は目の前の男の手によって生まれたままの姿をさらしている。
だが、目の前の男−藍楸瑛は、衣の前を緩く乱したまま。
余裕のあるその態度が、正直、むかついた。
淡いアメジストの瞳が、自分を見つめる。
一歩間違えれば、その視線で殺されそうなほどの強い力を持った眼差しだ。
だが、私は彼のその瞳に、実はぞっこんなのだ。
この瞳を快楽の涙でぬらしてしまいたい。
あごを救い上げ、再び口付ける。
「今夜は、寝かさない・・・・一晩中、君が狂うまで犯してあげる」
絳攸の耳元にそう囁くと、私は首筋に痕がつくまで口付た。
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そばにいない男のために文をしたためる。
俗に言う、恋文というやつだ。
「馬鹿か・・・俺は」
いつも、思ったこととは反対のことを口走る。
「大好きだよ。」「俺は、大嫌いだ」
「うそつき」「嘘じゃない」
いつものやり取り。
だが、口元は笑っているのに、目は笑っていない。
だから、一度ぐらい恋文でも書こうと思ったのだ。
机の周りには書き散らした恋文の下書き。
「楸瑛・・・」
いない男の名をつぶやくと、俺はそのまま机の上に伸びた。
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