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執務室には、楸瑛以外、いなかった。



目の前の楸瑛に俺は尋ねた。

「楸瑛、主上はどうした。?」
「府庫にいった。」

上目遣いに、藍玉の瞳が自分を見つめた。

「主上についていかなかったのか?」
「ああ、それについては大丈夫。護衛はつけてある。」

じとりと藍玉の瞳が自分を見つめる。
楸瑛は感情を表に出さないといわれているが、それは違う。
楸瑛の場合は、目、すなわち眼差しに多くの感情を表すことが多い。
腐れ縁だがらこそ、楸瑛の眼差しから感情を読み取ることはできる。


「何かあったのか?」


文:椿さん・絵:はすかわ

 

「何かって?」

しらばくれる楸瑛に俺はため息をついた。

「何を悩んでいるんだ?」
「・・・」
「何年、腐れ縁をやっていると思っているんだ。常春頭が悩んでいることぐらい、わかるぞ。」

仕方がないと思いつつ、俺は荷物を置いた。
腕を組み、目の前の楸瑛が口を開くのを待つ。

「君は、『家』の縛りが少ないよね・・・」
「お前よりは、少ないな」

なるほど、と俺は胸の中でつぶやいた。
家を継いだ3人の兄と天才の弟。
コイツも・・・


「楸瑛。お前はお前だろう?俺は、藍楸瑛お前自身が何より必要なんだ。」

「絳攸」


家は関係ない。
藍楸瑛自身が必要だという言葉に、楸瑛は目を閉じた。
誰からも言われなくて、一番欲していた言葉を、目の前の絳攸はあっさり言ったのだ。


「・・・だから、私は君が好きなんだ・・・」
「常春が・・・」



「府庫に案内しろ。そろそろ主上に戻ってもらわねば困るからな」
「了解」

楸瑛は、立ち上がると絳攸の持っている本を半分持ち、府庫へ向かう。

「現金な奴」

呆れたように絳攸はつぶやくと、楸瑛の後について府庫へ向かった。