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たかつきさん(文:椿さん) がたん・・・と唐突に倒れる音が聞こえた。
反射的に私は倒れる彼を抱きとめる。
愛しい麗人は腕の中で眠っていた。

「何日寝ていないんだい・・・・君は・・・・」

おそらく、相当寝ていないことは明白

銀の髪が自分の頬を掠める。
耳が甘い吐息を拾う。
彼が纏う上質の香が鼻を掠める。

彼のすべてが愛しい。
だが、今の関係を壊したくない。

「我ながら、情けない・・・・」

この腕の中に閉じ込めてしまおうか
薔薇姫の伝説のように閉じ込めてしまおうか


絳攸・・・・君が愛おしいよ・・・


(こんの性悪常春男が・・・豆腐の角に頭ぶつけて・・・・)
鳴ろうかと一瞬、俺は考えた。
目の前の男は自分の指に愛おしげに
口付ける。
「絳攸?」
藍玉(ラピスラズリィ)の瞳が細められ、
薔薇のように赤い唇が、笑みを浮かべる。

「楸瑛」

「何」
名を呼んでも、目の前の男は自分の指に唇を這わせる。

「お前、俺の指に口づけて楽しいか?」
「もちろん」

チロチロと赤い舌が、自分の指を舐める。

「ねえ、絳攸」
欲に濡れた男の瞳が自分を見つめる。
「明日は公休日だし、しよう。思う存分、君を抱きたい」

「好きにしろ」
そう答えると、目の前の男は、自分を抱き上げた。

はすかわ(文:椿さん)

皇子さん(文:椿さん)

「こーゆー」
がしりと、子泣き爺のように突然抱きつかれた。
「しゅーえーいー。この常春が!!」
「また、迷子?」
ふわりと楸瑛が好んで使う香りが鼻を掠める。
「どうした?一体?」
ぎゅっと自分にしがみつく楸瑛の首筋を軽く叩く。
甘えたがりのこの男には、多少のことでは驚かなくなった。
「寂しい」
「そうだな。ゆっくり酒を飲んでいる暇もなかったからな・・・」
恋人と呼べるようになったのはつい最近。
本来なら蜜月なのだろうが
あいにくと互いの仕事に忙殺されていた。
「楸瑛・・・俺も、ずっとこのままでいたい」
「こうやって、ずっと抱きしめていたい・・・」
「わかっているよ。絳攸・・・・わかっているんだ・・・でも」
ぽんぽんと楸瑛の首筋を叩くと、絳攸は告げた。
「楸瑛、どうにか今日でこの仕事に目処が立つ。
夜遅くになるだろうが、お前の家に向かう。
明日は休みだから、二人でゆっくり過ごそう」
いくらでも、そばにいるからと
睦言よりも甘い言葉に楸瑛は笑みを浮かべた。

「不安にさせてすまない。愛している。楸瑛」
「私もだよ。絳攸」
そういうと二人は仕事場に向かった。